columnコラム

労働 裁判例 獣医師

試用期間中の解雇

弁護士 幡野真弥

■ 正社員の採用にあたり、一定の期間を使用期間として、従業員の能力や適性をみることは広く行われています。
 しかし、試用期間だからといって、従業員を安易に解雇することはできません。客観的に合理的な理由があり、社会的に相当といえる場合に限り、解雇は認められています。

■東京地方裁判所平成25年7月23日判決
 この裁判例では、試用期間中の獣医師に対する病院の解雇の有効性が争われました。
 病院側は、獣医師のミスや、院内試験の結果、勉強会への欠席、協調性の欠如等を理由に、解雇は有効であると主張しました。
 しかし、裁判所は以下のように判断し、解雇は無効しました(判決文を読みやすくするために一部修正しています)。

「請求金額のミスは不注意の域を出ず、カルテの記載が不十分だった点も、その後に繰り返されているわけではないから過大に評価すべきではない。猫にケトコナゾールを処方した点については、被告が提出する文献においても「使用しない方が良い」という程度の記載であるから、致命的なミスとはいえない。また、院内での学科試験についても、被告内の基準に沿わない場合は減点されていることがうかがわれるから、勉強会を受講できなかった回や、原告の回答が医学的に誤りとまではいえない部分については一定の配慮があってしかるべきである。これらの点にかんがみれば、以上の諸事実をもって、原告が獣医師として能力不足であって改善の余地がないとまでいうことはできない。」
 
「そして、原告が院内勉強会に対して必ずしも熱心ではなかったことはうかがわれるものの、他の勉強方法を一切認めないというのは狭きに失するし、院内勉強会への出席について明確な業務指示を出したとは認めがたい本件において、院内勉強会への出席状況を勤務態度の評価に反映することには抑制的であるべきである。
 加えて、協調性の欠如については、具体的な事実関係を認定するに足りる的確な証拠がない。」

 試用期間中であれば、解雇は緩やかにできると誤解されていらっしゃる方がいらっしゃいますが、従業員の退職問題は、慎重に対応する必要があります。