columnコラム

裁判例 相続

相続の放棄と承認-熟慮期間②起算点

弁護士 幡野真弥

 相続を放棄するか承認するか、相続財産を調査して検討するための時間である熟慮期間は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月間です。
 「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは被相続人が死亡して相続が開始されたことと、自分が相続人となったことを知った時を指します。
 なお相続人が未成年者や成年被後見人である場合は、熟慮期間は法定代理人(親権者や後見人)が知った時から熟慮期間は起算します(民法917条)
 また、相続人が複数いる場合は、熟慮期間は、相続人ごとに個別に算定されます。

 相続財産がないと考えたために、熟慮期間中に相続財産の調査をせず、また限定承認や放棄の選択をしなかったということがあります。この場合、相続を承認したものとみなされます。
 本当に相続財産がなければよいのですが、真実は負債があったものの、相続財産がないと誤解したために、放棄をしないまま3か月が経過してしまったということがあります。この場合も、被相続人が死亡して相続が開始されたことと、自分が相続人となったことを知った時から熟慮期間がスタートすることが原則です。
 ただし、最判昭和59年4月27日は、「3ヶ月以内に限定承認または相続放棄をしなかった原因が被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の上場から見て当該相続人に対し相続財産の有無の調査をすることが著しく困難な事情があって、相続人においてそのように信じるにつき相当な理由があると認められるときには、相続人が「相続財産の全部または一部の存在を認識したとき又は通常これを認識しうべき時」から熟慮期間を起算するべきものと判断しました。
 これは、相続人が、積極財産・消極財産のいずれも存在しないと信じた場合についてだけ認めた例外です。最高裁は、例外を認めるのは「相続財産が全く存在しない」と信じた場合に限っているようです。
 他方で、限定しない学説や裁判例もあります。東京高決平成19年8月10日は、相続人が、被相続人に積極財産が存在すると認識していても、その財産的価値がほとんどなく、消極財産については全く存在しないと信じ、かつそのように信じるにつき相当な理由がある場合についても、例外を認めて、「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、消極財産の全部又は一部の存在を認識した時またはこれを認識しうべかりし時から起算するべきものとします。