columnコラム

裁判例 獣医師

獣医師の説明義務違反について②

 「獣医師の説明義務違反について①」で述べましたが、説明義務には、オーナーから診療行為について同意を得るためのものがあります。
 この説明は、オーナーに治療選択の機会を提供し、自己決定権を保障し、承諾を得るために行われます(インフォームド・コンセント)。
 どの程度の説明を行うかは難しい問題ですが、説明が不十分であり、オーナーの治療方法を選択する権利が侵害されたといえる場合、獣医師に法的責任が発生します。

 以下、具体的な裁判例をご紹介します(名古屋高等裁判所金沢支部平成17年5月30日判決)。

■事案の概要
 獣医師は、犬(ゴールデンレトリーバー、雌、13歳)の左前腕部にあった腫瘤を切除する手術を行いました。手術により切除された細胞につき病理組織検査をしたところ、腫瘤が起原不明の肉腫(がんの一種)であることが判明しました。 犬は予後が悪く、手術から1ヶ月半後に死亡しました。
 獣医師は、手術の実施に際して、オーナーに対し、腫瘤が悪性・良性のいずれのものであっても摘出するしかないこと、腫瘤が大きくなっているためもともと後ろ足の悪かった犬の歩行に支障を来すおそれがあることを説明するにとどまり、手術に伴う危険性として、腫瘤が悪性である場合には、術後再発したときは断脚するしかないことについては説明していませんでした。
 オーナーは、診療行為そのものについての過失だけでなく、獣医師に説明義務ががあった(獣医師が説明義務を尽くしていれば手術はしなかった)と主張しました。

■裁判所の判断
 裁判所は、獣医師には、オーナーがいかなる治療を選択するかにつき必要な情報を提供すべき義務があると判断しました。そして、説明義務として要求される説明の範囲は、オーナーがペットに当該治療方法を受けさせるか否かにつき熟慮し、決断することを援助するに足りるものでなければならない、具体的には、当該疾患の診断(病名、病状)、実施予定の治療方法の内容、その治療に伴う危険性、他に選択可能な治療方法があればその内容と利害得失、予後などに及ぶと判断しました。
 そして、犬が、既に老齢であったことや、今回の手術前に行った腫瘤の手術結果が思わしくなかったこと、オーナーは、犬についてできるだけ余生を平穏に過ごさせてやろうと考えていたこと、そのため、もしもオーナーが、獣医師から、本件腫瘤が悪性のものであり(※裁判所は、腫瘤につき悪性・良性の別の診断に必要な生検を手術前に行うべき義務があったと判断していました)、手術にもかかわらず完治せず再発した場合には、断脚のほかに治療法がないことの説明を受けていれば、手術に同意することはなく、経過を観察しながらの保存的な治療を選択することになったものと裁判所は認め、また、犬が手術を受けることなく、保存的な治療をした場合には、それほど長期の余命は期待できないものとしても、手術後1か月半程度で死亡することはなかったものと推認できると判断しました。

 そして、オーナーが、余命少ない犬に、大きな苦痛を与えることなく平穏な死を迎えさせてやりたいと考えることもごく自然な心情であって、犬の治療方法を選択するに当たってのオーナーの自己決定権は十分尊重に値するとして、慰謝料30万円を認めました。

 説明義務をめぐる裁判例については、これからもご紹介をしていきます。

浜松町アウルス法律事務所
弁護士 幡野 真弥